女性弁護士のきらきらブログ

2013年03月06日 | 中溝明子, 気になる裁判例

パワハラー最近の動向(4)

前回は、パワハラの裁判例として

東京地判平成24年3月9日(労働判例1050号68頁)をご紹介しましたが・・・

実はこの裁判では、「飲酒強要」が違法なパワハラ(不法行為)に当たるかも

大きな争点として争われました。

 

東京地判平成24年3月9日では、

上司が、

「少しぐらいなら大丈夫だろう」「おまえ、酒飲めるんだろう。そんなに大きな体をしているんだから飲め」と

執拗に飲酒を勧めていた事実を認定しながらも、

その他の事情(3時間近く居酒屋におり打ち解けた様子だった、酒量はコップ2/3程度だったこと)などから、

「飲酒の勧誘は強要といわれても仕方ないものがあったとはいえ、

その飲酒の経過や態様等からみて、

上司としての立場(地位・権限)を逸脱・濫用し、

通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような性質・内容のものではったとはいえない」として

不法行為と評価できるほどのパワハラではないと認定しました。

 

・・・酒は強要したが、違法なパワハラではない・・・

 

正直、判決を読んだとき、厳しいなぁと思いました。

なぜなら、私もお酒、ダメなんです(笑)

でもお酒が強いように見えるらしく、しつこく飲め飲めと言われることもしばしば。

酒の席で「飲め」と言われたときの辛さはよく分かる。。。

 

控訴審はどうなるんだろう?と興味を持っていましたところ、

平成25年2月27日に控訴審判決が出ました!!

 

ニュースにもなったのでご存じの方も多いと思いますが、

東京高等裁判所は、

少量の酒を飲んだだけで嘔吐している部下に「吐けば飲める」と言って執拗に酒を強要したことは

不法行為にあたると認定しました!!

 

最近の判決のため、判決文を確認できておりませんので、

詳しいお話をすることはできませんが、

画期的な判決だと思います!

 

セクハラでも同じ構造があるのですが、

組織に所属する者としては、

たとえセクハラやパワハラによって苦痛を感じていたとしても、

・・・その場の雰囲気を悪くしないかとか

・・・周囲に迷惑をかけてはいけない

なんてことを気にして、

笑ったり、冗談ですむような言動をとったりします。

けれど、だからといってセクハラやパワハラ行為が正当化されるわけではないんですね。

 

不法行為にあたるかどうか一定の基準が示されているとはいえ、

どんな場合に不法行為になるかは

まだまだ事例の集積が必要かも知れません。

 

けれども、「不法行為」にあたるなんていうパワハラはかなり悪質なもの。

みんなが気持ちよく働くことができる職場にするためには

不法行為にあたるかあたらないかに関わらず、

パワハラをなくしていくことが大事ですね。

 

以上、4回に渡ってお伝えしました「パワハラー最近の動向」はひとまず終了。

また、裁判例などの動きがありましたらご報告したいと思います。

 

 

 
2013年03月04日 | 中溝明子, 気になる裁判例

パワハラー最近の動向(3)

「パワハラ」3回目のお話は、気になる裁判例のご紹介です☆

 

ここ数年、パワハラに関する裁判例がけっこう出ているのですが、

ここで、ご紹介したいのは、東京地裁平成24年3月9日の判決。

いわゆるパワハラと評価できる行為が、どういう場合に不法行為つまり違法になるかの基準を示した裁判例がでました。

 

東京地判平成24年3月9日(労働判例1050号68頁)

パワーハラスメントが民法709条所定の不法行為を構成するかについては、

「質的にも量的にも一定の違法性を具備していることが必要」であると指摘し、

これを判断するためには

パワーハラスメントを行った者とされた者の人間関係、

当該行為の動機・目的、時間・場所、態様等を総合考慮の上、

「企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司等が、

職務を遂行する過程において、

部下に対して、

職務上の地位・権限を逸脱・濫用し、社会通念に照らして客観的な見地からみて、

通常人が許容しうる範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為」

をしたと評価される場合に限り、被害者の人格権を侵害するものとして

民法709条所定の不法行為を構成するのが相当と指摘しました。

 

なんか・・・難しいですね(笑)

 

誤解を恐れずに、平たく言いかえると、

パワハラと主張されている言動が

どういう状況でなされたものか、いろいろな事情を考えた上で

一般常識からして許せなるか許せないかで判断しましょう

って感じですね。

 

な〜んだ、当たり前じゃないか!

と思う方も多いかも知れませんが、

その当たり前が大事なんです。

誰もが、当たり前だなと思えるものを基準にして判断しなければ、

裁判所の判断は何だか不公平な恣意的なものに思えて、誰も納得しませんから。

 

 

では、この基準からするとどういう場合が不法行為にあたるパワハラになるのか?

気になりますよね。

この判決で認定された内容を簡単にご紹介します。

 

留守番電話に録音されていた発言が

パワハラか?不法行為を構成するか?が争点となっていたのですが、

 

(1)私、怒りました。辞表出します・・・といった内容の留守電

 

これについて裁判所は、

一種のパワーハラスメント的要素を含んでいるとしても、直ちに不法行為にはあたらない

と判断しました。

 

これに対し、

 

(2)ぶっ殺すぞ。辞表出せよ。・・・といった内容の留守電

 

これについて裁判所は、

暴力団まがいの脅し言葉を使用した上(害悪の告知)、 辞表を強要するという常軌を逸したもの

社会的相当性を逸脱する脅迫行為であり、不法行為にあたる と判断しました。

 

判断としてはとても常識的に感じます。

立腹する事情が多々あったので、多少、言葉がきつくなるのはやむを得ないけれど

残念ながら、言ってはいけない言葉を言ってしまった・・・ということでしょう。

 

 

以上、裁判例のご紹介をいたしましたが、

これはあくまで東京地裁という一地方裁判所の判断なので

今後も全てがこの基準で判断されるということではありません。

一般に「判例」として一定の拘束力をもつものは最高裁の判決のみです。

ただ、いち地方裁判所の判断とはいえ、明確な基準が示されましたし、内容としても妥当だと思われます。

そのため、今後も同様の基準を使った裁判例が出てくる可能性は高いと思いますし、

皆さんが、これはパワハラかな?不法行為かな?と考えるときの

一つの目安になるものだろうと思います。

 

 
2013年03月01日 | 中溝明子

パワハラー最近の動向(2)

今日は春らしい陽気になりましたね♪

少々時間が空いてしまいましたが、前回のパワハラのお話の続きです☆

 

厚生労働省主催の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」が

平成24年3月15日「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」を公表しましたが、

この提言を踏まえて、

厚労省は、

職場のパワーハラスメントの実態 を把握するとともに、

この問題が発生する要因の分析や、予防・解決に向けた課題の検討を行うことを目的として

調査を実施しました。

 

そして、平成24年12月12日

「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」が発表されました。

 

厚労省:職場のパワーハラスメントに関する実態調査

 

平成24年7月から9月にかけて

企業調査と従業員調査の2方向のアンケート調査を実施し、

企業調査は計4,580社から、従業員調査は計9,000名から回答を得たというものです。

信憑性ある調査といえるのではないかと思います。

 

この調査では、

パワハラ被害者の年齢や性別、役職やパワハラの種類の内容の分析の他に

パワハラが起きやすい環境要因の分析などがなされていました。

 

これがなかなかおもしろい。

 

企業調査、従業員調査を通じて、

・ 残業が多い/休みが取りがたい

・失敗が許されない/失敗への許容度が低い

という緊張感やストレス度の高い職場においてパワハラが起きやすい傾向が見られるという結果が示されていました。

 

これは、感覚的にも納得できますよね。

緊張感やストレス度が高ければ、人は感情的になりやすく、傷つける意図はなくても、つい人を傷つけてしまう言動をしてしまうことがありますから。

 

仕事の性質上、緊張感やストレス度の高さは容易に変えることができませんが、

もう一つ、

企業調査、従業員調査で共通の職場環境として

「上司の部下のコミュニケーションが少ない職場」が挙げられていました。

 

特に、従業員調査で興味深かったのは、

悩み、不満、問題と感じたことを『会社』『上司』に伝えやすいかどうかという質問で、

パワハラ経験者と未経験者との間では2倍以上の差がみられるのに対し、

「『同僚』同士のコミュニケーションが円滑である」

「仕事以外のことを相談できる『同僚』がいる」

という質問では

yes,noの回答に優位的な差が見られなかったり

パワハラ経験者と未経験者との間に大きな差がみられなかったりしたそうです。

 

つまり、パワハラ発生に関するコミュニケーション上の問題としては

相談できる「同僚」の有無よりもむしろ

 

「会社や上司に対する相談のしやすさ、話しやすさ」

 

が重要であることが、この調査からは伺えました。

もちろん、これはあくまでもアンケート調査の結果ですから、これがパワハラ環境の全てというわけではありませんが、

一つの傾向や要因として頭に入れておいて損はない調査結果だと思います。

 

<パワーハラスメントの予防・解決のための取り組みを進めるための視点>

パワーハラスメントが「生じにくい」環境作り

パワーハラスメントに関する「相談がしやすい」環境作りのためには

職場における「コミュニケーション」を活性化しつつ、

「上位者」がパワーハラスメントについて理解した上で、

「部下等」とのコミュニケーションを行うことが重要だといえそうですね。

 

もっとも、コミュニケーションをとろうとして

相手のプライバシーに過度に立ち入ったり、下ネタで盛り上げようとしたりすれば

パワハラ・セクハラという問題が発生しかねませんのでご注意くださいね。

 

厚労省:職場のパワーハラスメントに関する実態調査

 

 

次回はパワハラに関する気になる裁判例をご紹介します。

 

 

 

 

 
2013年02月21日 | 大久保佳織

全国付添人経験交流集会in三重

先週末、全国付添人経験交流集会に参加してきました。

付添人経験交流集会は、全国から付添人活動などの少年事件の分野に携わる弁護士が集まり、一年に一度行われる勉強会です。

二日間にわたり6つの分科会が開催されて、とても有意義な二日間でした。

私は重大事件の付添人活動報告といじめ予防授業の取組についての分科会に参加してきましたが、どちらもとても興味深いものでした。

特にいじめ問題についてはタイムリーな話題でもあり、「何がいじめにあたるのか」「なぜいじめはいけないのか」を学校で教えるということは非常に重要なことだと思いました。いじめが起きてから対処するのではなく、いじめを未然に防ぐこと、そのための取り組みを千葉でもできたらいいなと考えさせられました。今後の委員会の課題として、検討したいものです!

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さて、最後にせっかく三重まで行ったからということで、観光もしてきましたよ。

伊勢神宮は式年遷宮の年でもあり、たくさんの人で賑わっていました。パワースポットといわれる伊勢神宮でしっかりパワー頂いてきました。

鳥羽水族館でもジュゴンやスナメリなどを見ながら癒されて、やる気チャージをしてきました。

2月もあと少し。パワー全開で引き続き頑張ります!!

 

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2013年02月19日 | 中溝明子

パワハラー最近の動向(1)

昨日は、ある公益団体のセクハラ・パワハラ研修会で講師を務めて参りました。

 

昨年は、パワハラについては気になる動きがありましたので、

研修も最近の動向を中心にお話ししてきました。

皆さんの職場でも参考になると思いますので、

その内容を少しご紹介いたしますね。

 

と、その前に、「パワハラ」について少々説明。

 

一般に「パワハラ」と言われるものは

「パワー・ハラスメント」の略語なんですが、

実はこれ和製英語なんです。

「力関係を利用した嫌がらせ」という趣旨で

(株)クオレ・シー・キューブの岡田康子さんが作った造語です。

英語では ブリー( Bully)= いじめ が一般的に使われているようです。

 

職場におけるパワハラは、

・人格権(プライバシーや名誉、自己決定権などを含む)

・働く権利

といった憲法上保障されている誰もが平等に持っている権利を侵害するもの!

だから無くしていきましょう!!ということなのですが、

なかなか難しい・・・・

 

そこで、

厚生労働省では「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」が開催され、

平成24年3月15日

この円卓会議より

「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」

が公表されました!

 

この提言には

「職場のパワーハラスメントの概念」や

「職場のパワーハラスメントの行為類型」などが分かりやすくまとめられており、

政府側が初めてパワーハラスメントの定義を公表したものとも言われています。

 

また、この提言では、

職場のパワーハラスメントは、

「上司から部下」だけでなく、

「同僚間」や

「部下から上司」にも行われるとの指摘がなされています。

働く人の誰もが当事者となり得るという重要な指摘だと思います。

職場のパワーハラスメントを無くしていくためには

管理職だけではなく、

組織で働く誰もがパワーハラスメントを理解し意識することが必要なんですね。

 

この提言はとても分かりやすい表現で書かれていますので、

お目通しいただいてはいかがでしょうか?

 

 

厚生労働省ー職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言取りまとめ

 

※パワハラについてはもう少しお話ししたいことがあるので、今後も何回かに分けてご報告しようと思います。

 

 
2013年01月07日 | 事務所

年頭のあいさつ

新年明けましておめでとうございます。
皆様におかれましてはつつがなく新しい年をお迎えのこととお慶び申し上げます。

当事務所は本日より仕事始めとなります。

所員一同、新たな気持ちで一層の研鑽に励む所存です。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

皆さまにとって本年が、穏やかに晴れた本一年になることを心から祈念いたしまして、年頭のご挨拶とさせていただきます。

 

 
2012年12月28日 | 事務所

良いお年をお迎え下さい。

本年の執務は、本日をもちまして終了とさせていただきました。

来年の執務開始は1月7日(月)午前9時からとなっております。

何卒、ご了承下さい。

 

本年も皆さまに大変お世話になりました。

来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

どうぞ良いお年をお迎え下さいませ。

 
2012年12月27日 | 中溝明子

いよいよ「家事事件手続法」施行!

平成24年も残り数日となりました。

平成25年1月1日から、いよいよ「家事事件手続法」が施行されます。

 

以前、ブログでもお知らせしましたが、

新しい家事事件手続法ではこれまでなかったサービスを受けることが可能になります。

主だったものをお知らせしますね。

 

【非開示希望書面】

調停や審判などで、裁判所には知らせたいけれど、相手方に見られてしまっては困る書面を提出する場合、裁判所に対して「非開示の希望に関する申出書」を添付した上で資料を提出します。

この「申出書」は書式がありますから、家庭裁判所や弁護士に相談すれば書式を準備することができます。

この申出書は、非開示を希望する書面と「一体として」提出する必要があります。

そのため、非開示としたい書面を裁判所に提出するときには、

「非開示の希望に関する申出書」を表紙に付けて(ホチキスなどで留めて)、1通の書面にして提出してくださいね。

なお、必ずしも非開示の希望が通るわけではないとのこと。

非開示にするか、開示するかは裁判所が判断することになります。

絶対に非開示でなければ困るような場合は、具体的な事情や開示になったときの危険性などを裁判所に説明するのがよいでしょう。

 

【電話会議システム】

すでに民事事件などでは活用されている「電話会議システム」が、家事事件でも使えるようになりました。

本人確認などの必要のため、初回はご本人の出頭が必要とされているようですが、

遠方の裁判所で調停や審判をしなければならないときには活用できそうですね。

とても便利そうにも思うのですが、

実際には、表情や態度など言葉以外のコミュニケーション方法から得ている情報というものが少なくありません。

細かなニュアンスを伝えたり、知るためにも、直接手続きに参加した方がよい場合も多そうですね。

とはいえ、様々な事情を抱え方がいらっしゃいますから、

調停や審判の持ち方について選択肢が増えたというのは良いことだと思います。

 

 

この他、細かな配慮が必要となるものもありますので、

これから手続きを行う方は、是非お気軽にご相談下さいませ☆

 

 

 

 

 
2012年11月30日 | 大久保佳織

県立千葉中学校 社会人講演会

昨日,子どもの権利委員会のイベントとして,委員会のメンバーと臨床心理士さんと一緒に千葉中学校を訪問し,出前授業をしてきました。

「自分の気持ちの上手な伝え方」「《調停役》になって問題解決をしてみよう」という2つのテーマ。

普段はたくさんの中学生と接することはなかなかない上に,初めての訪問授業ということでとても楽しみにしていました。

実際授業をしてみると,たくさんの生徒さんが積極的に発言してくれて,きちんと自分の意見を表現できることに感心し,私の中学生時代とは大違いだな・・・と反省するとともに,若いパワーをたくさんもらいました。

 

また,いつも説得役にまわる弁護士が,授業の中では逆に生徒さん達に説得される側にまわるという貴重な体験もでき,私も改めて気をつけたいなと学ぶところもあり,とても有意義な時間でした。

 

お互いに気持ちよく解決するためには,どういう言葉を選び,どのような説得をするべきなのか,また数字的な解決だけでなく,お互いの気持ちを尊重した解決がいかに大事か,ということを生徒さん達に少しでも伝えられていたら授業の意味があったかなと思います。

 
2012年11月13日 | 中溝明子

早わかり!千葉県暴力団排除条例

千葉県では、平成23年9月1日に千葉県暴力団排除条例が施行されました。

その条例に関する解説書「早わかり!千葉県暴力団排除条例」が

千葉県弁護士会から発刊されました☆

 

今回、千葉県弁護士会会員にも配布されたのですが、

Q&A方式で分かりやすい内容となっていますし、

巻末資料では契約書例などもあり使いやすい。

 

1冊500円(振込手数料・送料は購入者負担)で販売されていますので、

ご希望の方は千葉県弁護士会までお問い合わせ下さい。

 

 

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