女性弁護士のきらきらブログ

2013年03月04日 | 中溝明子, 気になる裁判例

パワハラー最近の動向(3)

「パワハラ」3回目のお話は、気になる裁判例のご紹介です☆

 

ここ数年、パワハラに関する裁判例がけっこう出ているのですが、

ここで、ご紹介したいのは、東京地裁平成24年3月9日の判決。

いわゆるパワハラと評価できる行為が、どういう場合に不法行為つまり違法になるかの基準を示した裁判例がでました。

 

東京地判平成24年3月9日(労働判例1050号68頁)

パワーハラスメントが民法709条所定の不法行為を構成するかについては、

「質的にも量的にも一定の違法性を具備していることが必要」であると指摘し、

これを判断するためには

パワーハラスメントを行った者とされた者の人間関係、

当該行為の動機・目的、時間・場所、態様等を総合考慮の上、

「企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司等が、

職務を遂行する過程において、

部下に対して、

職務上の地位・権限を逸脱・濫用し、社会通念に照らして客観的な見地からみて、

通常人が許容しうる範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為」

をしたと評価される場合に限り、被害者の人格権を侵害するものとして

民法709条所定の不法行為を構成するのが相当と指摘しました。

 

なんか・・・難しいですね(笑)

 

誤解を恐れずに、平たく言いかえると、

パワハラと主張されている言動が

どういう状況でなされたものか、いろいろな事情を考えた上で

一般常識からして許せなるか許せないかで判断しましょう

って感じですね。

 

な〜んだ、当たり前じゃないか!

と思う方も多いかも知れませんが、

その当たり前が大事なんです。

誰もが、当たり前だなと思えるものを基準にして判断しなければ、

裁判所の判断は何だか不公平な恣意的なものに思えて、誰も納得しませんから。

 

 

では、この基準からするとどういう場合が不法行為にあたるパワハラになるのか?

気になりますよね。

この判決で認定された内容を簡単にご紹介します。

 

留守番電話に録音されていた発言が

パワハラか?不法行為を構成するか?が争点となっていたのですが、

 

(1)私、怒りました。辞表出します・・・といった内容の留守電

 

これについて裁判所は、

一種のパワーハラスメント的要素を含んでいるとしても、直ちに不法行為にはあたらない

と判断しました。

 

これに対し、

 

(2)ぶっ殺すぞ。辞表出せよ。・・・といった内容の留守電

 

これについて裁判所は、

暴力団まがいの脅し言葉を使用した上(害悪の告知)、 辞表を強要するという常軌を逸したもの

社会的相当性を逸脱する脅迫行為であり、不法行為にあたる と判断しました。

 

判断としてはとても常識的に感じます。

立腹する事情が多々あったので、多少、言葉がきつくなるのはやむを得ないけれど

残念ながら、言ってはいけない言葉を言ってしまった・・・ということでしょう。

 

 

以上、裁判例のご紹介をいたしましたが、

これはあくまで東京地裁という一地方裁判所の判断なので

今後も全てがこの基準で判断されるということではありません。

一般に「判例」として一定の拘束力をもつものは最高裁の判決のみです。

ただ、いち地方裁判所の判断とはいえ、明確な基準が示されましたし、内容としても妥当だと思われます。

そのため、今後も同様の基準を使った裁判例が出てくる可能性は高いと思いますし、

皆さんが、これはパワハラかな?不法行為かな?と考えるときの

一つの目安になるものだろうと思います。

 

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