女性弁護士のきらきらブログ

2014年03月20日 | 鈴木牧子

法律ミニ知識ー2ー 【農地法改正と耕作放棄地】

1 耕作放棄地の現状

耕作放棄地が増えている。

全国の耕作放棄地は39.6万ヘクタールある(平成22年)。埼玉県の面積にほぼ相当するほどの広さだ。   昭和60年と比較して,平成22年には全国で耕作放棄率は3.5倍の増加ぶりだ。   千葉県はどうか。千葉県の耕作放棄地は,平成22年時点では1万7963ヘクタールであり,昭和60年と比較して5.7倍に増加している。耕作放棄率で昭和60年と比較すると千葉県は6.7倍に増加し,千葉県の増加率は急激である。   確かに,総武本線で千葉から銚子へ電車で向かうと,線路沿いに流れる農地・畑地の中に農地の原形を失うほどに荒れた土地(耕作放棄地)が点在しているのを見つけることができる。   中には山林のようになってしまったり,産業廃棄物の捨て場所になったりしている。耕作放棄地の問題は,都市近郊の農業立国千葉県の大きな問題なのだ。

2 耕作放棄地の定義と発生原因

ところで,耕作放棄地は,農林業センサスにおいて,「以前耕作していた土地で,過去1年以上作物を作付けせず,この数年の間に再び作物を作付けする考えのない土地」を言うとされており,農家等の意思により再び作物を作付けする考えのないことが前提になっている。   平成22年の千葉県の経営耕地面積9万0321ヘクタールを100とすると,耕作放棄地1万7963ヘクタールは16.6パーセントである。全国の耕作放棄地率9.8パーセントの1.7倍である。

つまり,千葉県においては経営耕地面積の2割弱の農地が,農家の人々によってこの数年間に再び作付けする意思がないと考えられているのだ。   なぜ,農家の人々は再び作物を作付けする意思がないというのか。   この耕作放棄地の発生原因については,「高齢化・労働力不足」が最も高く,「地域内に引き受け手がいない」も比較的高いとされ,「農産物の価格低迷」や「収益の上がる作物がない」といった経営条件の悪化も大きな要因とされている。

3 耕作放棄地対策は?

日経新聞に,東急不動産が作物を栽培せずに放置されている農地の再生事業に乗り出すことになり,その第1弾として千葉県内の宅地用に取得した未開発のままの農地を含む80ヘクタールを3年かけて再整備するという記事が載っていた(平成26年3月5日日経新聞朝刊記事)。

企業の農業参入の記事が最近目につく。イオンは全国の耕作放棄地などを活用し平成27年度までに直営農場を500ヘクタールに拡げ,吉野屋HDは平成25年10月に福島県の地元農家などと協力して農業生産法人を設立し平成29年度までに栽培規模を13ヘクタールまで拡げるのだという。

4 農地法の改正と耕作放棄地

企業の農業参入の転換点は,平成15年,同17年の耕作放棄地農地の農業生産法人以外へのリース容認と平成21年の農地法改正である。   まず,平成15年から,構造改革特区制度により,一部の地域(特区)では耕作放棄地の農地について,農業生産法人以外の法人へのリースが容認されることになった。平成17年には特区以外にも同様のリースが容認されることになった。

続いて,平成21年に農地法が改正された。 農地法第1条の目的が,「この法律は,農地はその耕作者自らが所有することを最も適当であると認めて,耕作者の農地の取得を促進し,及びその権利を保護し,並びに土地の農業上の効率的な利用を図るためにその利用関係を調整し,もって耕作者の地位の安定と農業生産力の増進を図ることを目的とする。」(旧法第1条)とされていたのを,「この法律は,国内の農業生産の基盤である農地が現在及び将来における国民のために限られた資源である,かつ,地域における貴重な資源であることに鑑み,耕作者自らによる農地の所有が果たしてきている重要な役割も踏まえつつ,農地を農地以外のものにすることを規制するとともに,農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した農地についての権利の取得を促進し,及び農地の利用関係を調整し,並びに農地の農業上の利用を確保するための措置を講ずることにより,耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図り,もって国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的とする。」と改正された。   つまり,農地法の目的は,耕作者の農地取得の促進から踏み出したことになる。この改正により,賃貸借と使用貸借に限り農業生産法人以外の法人でも農地法3条許可が認められようになった。

これらの政策によって,農業生産法人以外の法人が農業に参入することが可能になったのである。

5 耕作放棄地対策の担い手

実は,耕作放棄地対策は,農業への参入を意図する企業に委ねれば解決するというほど簡単な問題ではないはずだ。

農業を担ってきた耕作者から,「農業は語るものではなく実践するものだ。」「自力で食料を得て生きることができる農業は素晴らしい」などとの書き込みがあったりして,企業の農業への参入を冷ややかに見る向きもある。

耕作放棄地対策の担い手は誰であるべきなのか。

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