非嫡出子(法律上の夫婦でない男女の間に生まれた子ども)の相続分を嫡出子(法律上の夫婦の間に生まれた子ども)の相続分の2分の1とする民法第900条4号ただし書き前半部分の規定は法の下の平等に反するとして最高裁判所の違憲判決(平成25年9月4日大法廷判決)が出されたことは記憶に新しい。それに基づいて,平成25年12月5日,民法の一部を改正する法律が成立し,民法第900条4号ただし書き前半部分が削除された。
これを機に,非嫡出子にまつわる親子関係の基本を遡っておさらいしてみよう。
1 親子関係の発生
法律上の夫婦でない男女の間に生まれた非嫡出子につき,母親と子どもとの親子関係は,分娩の事実によって当然発生するとされている(最高裁昭和37・4・27)。
では,父親と非嫡出子の親子関係はどうだろうか。民法779条は,父親が認知することによって親子関係が発生すると定めている。つまり,法律上の夫婦でない男女の間に生まれた子どもについては,両親が事実上の夫婦としてともに暮らしていたとしても,それだけでは父親が誰か分からないから,父親が名乗りを上げて認知することを必要とするとしているのだ。
2 非嫡出子が嫡出子の身分を獲得する「準正」
次に,非嫡出子が嫡出子に変更される場合があるのだろうか。
非嫡出子であった者が嫡出子の身分を取得することを「準正」という(民法789条)。準正には,「婚姻準正」と「認知準正」の2種類がある。つまり,嫡出子に変更される場合に2種類があるということだ。
婚姻準正というのは,法律上の夫婦でない男女の間に生まれた子どもを,先に父親が認知した後にその男女が婚姻する場合をいう。父親が認知したときに非嫡出子と父親との間に親子関係が発生し,その後両親が入籍すれば両親の婚姻により嫡出子の身分を取得することになる。
これに対し,認知準正というのは,両親の婚姻より先に生まれた非嫡出子について,まず両親が婚姻し,その後父親が認知する場合である。
3 認知の効力を有する嫡出子出生届
それでは,婚姻前に生まれた非嫡出子について,戸籍に認知されたという記載がないのに,嫡出子の扱いを受けることがあるのだろうか。
次のような例を考えてみよう。大正時代に結婚したご夫婦太郎さんと花子さんには入籍前にひとりの子どもさん勝男さんがいたとしよう。勝男さんは5月1日に生まれたが,太郎さんと花子さんは5月10日に祝言をあげ入籍を済ませた。取り寄せた戸籍謄本によれば,勝男さんは太郎さんと花子さんの嫡出子として扱われ,太郎さんが亡くなった後,家督相続をしていたことが分かる。
しかし,戸籍によれば,父親の太郎さんが婚姻前に認知したという記載がどこにもなく,婚姻後にも認知したとの記載が戸籍に出ていない。この場合,勝男さんは,いつどちらの準正によって嫡出子に変更されたのか。
答えは,戸籍法62条の「認知の効力を有する嫡出子出生届」の規定による。戸籍法62条は,父母婚姻後に両親が嫡出子出生届をしたときには,別に認知の届出がなくても認知の効力を生ずると定めたものである。
勝男さんの場合も,勝男さんが生まれた後,両親が婚姻届を出してから,勝男さんの出生届を2人で出したことにより,認知をしたとみなす訳である。
戸籍謄本には,両親が勝男さんの出生届を出したとの記載があった。
認知の文字は1文字もないのだが,戸籍法62条により,婚姻前に出生した非嫡出子について,両親が婚姻し,子どもの出生届を両親がともに出せば,認知と見なすのである。この場合は認知準正にあたることになる。
4 違憲判決と準正
嫡出子の相続分と非嫡出子の相続分に2分の1の差をもうけていた時代には,嫡出子かどうかということは大いに問題であった。
しかし,最高裁の違憲判決により,そもそも非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする民法の規定自体が違憲であることが確認された。民法の当該規定も改正され,平成25年9月5日以降に開始した相続について,新法が適用される。
そうなると,準正の規定の持つ意味も今後変わっていくであろう。